Hiro tells the story

ヒロ、夏の雪に本気で驚く

こんにちは、ヒロです。 今日は、ぼくがアラスカで「えっ、ちょっと待って」と本気で空に言った日の話をします。 その日はたしかに夏でした。 朝の光はやわらかく、 昼はちゃんと明るく、 ぼくの気分もすっかり夏でした。 なのに、です。 なのに夕方から空の様子が変わり、 夜には、信じがたいものが落ちてきたのです。 そうです。 雪です。

日本で「夏の雪」と聞くと、たぶん比喩か夢の話みたいに聞こえると思います。 でもアラスカでは、ときどき空が「今日はそれも見せておこうか」とでも言うように、 平然と季節の順番を飛び越えてきます。 その日のぼくは、かなり振り回されました。 でも、いま思えば、あれは最高の思い出です。

その朝、ぼくは完全に油断していました。 なにしろ光が気持ちいいのです。 空は澄んでいて、 風は少しひんやりしているけれど、いやな冷たさではない。 「ああ、今日はいい日だな」 と気楽に外へ出た、その数時間後に、 ぼくは雪を見て立ち尽くすことになります。

完全に初夏の顔
調子に乗るくらい快適
夕方 空が急に不穏になる
えっ、本当に雪!?
アラスカの空は、
たまにいたずらっ子みたいな顔をする。
そしてそのいたずらは、だいたい大がかりだ。
ヒロはその日、空の本気に巻き込まれました。
夏なのに雪に驚くヒロ
明るい夏の光
空を見上げるヒロ
第一幕

朝のぼくは、かなり機嫌が良かった

朝、外へ出た瞬間、 ぼくは「今日は勝った」と思いました。 なにに勝ったのか自分でもよく分かりませんが、 とにかく天気に歓迎されている感じがしたのです。

光はやわらかい。 空気はきれい。 山の輪郭は遠くまで見える。 風は冷たいけれど、顔をしかめるほどではない。 むしろ、日本の蒸し暑い朝を思い出して、 「アラスカの夏、最高じゃないか」とまで思いました。

ここでぼくは、やってはいけないことをしました。 薄手の上着だけで大丈夫だろう、と判断したのです。 いま振り返ると、その時点で物語の負けが決まっていました。 朝のぼくに言ってあげたいです。 「ヒロくん、それは早い。空を信用しすぎている」と。

やわらかな朝の光
第二幕

昼の光は、完全にぼくをだました

昼になると、さらに気分がよくなりました。 太陽が高くなって、 景色の色が一気に明るくなるのです。 木々は鮮やかで、 水面はきらきらして、 風景が「ほら、夏でしょう?」と胸を張ってくる。

ぼくはすっかりその気になりました。 歩き回って、 写真を撮って、 ちょっと汗ばむような気分になって、 「いやあ、アラスカの夏って、ほんとうに気持ちいいなあ」としみじみ思ったのです。

そしてそのときのぼくは、まだ知りません。 数時間後に、 同じ空に向かって 「いやいやいや、話が違うでしょう!」 と言うことになるなんて。

アラスカの昼は、
人に「今日はこのまま平和です」と思わせる。
そこが少しだけ罪深い。
朝に油断し、
昼に確信し、
夕方に疑い、
夜にあきらめる。

それが夏の雪の日だった。

ぼくは、その一連の流れをきっちり体験しました。

第三幕

午後、空が急に「別の話」を始めた

午後になってしばらくすると、 なんだか光の感じが変わってきました。 さっきまであんなに元気だった空が、 少しずつ黙り始めるのです。

雲が集まってきた、というだけではありません。 空気そのものの顔つきが変わる。 風の筋が細くなる。 日なたのぬくもりが、急に頼りなくなる。 「あれ?」 とぼくは思いました。

でもこの時点では、まだ楽観していました。 まあ、少し曇るくらいだろう。 アラスカだし、変わりやすいのだろう。 その程度です。 このへんのぼく、ほんとうに甘いです。

空の変化に気づくヒロ
第四幕

夕方には、もう笑うしかなくなっていた

夕方になると、空は完全に別人でした。 さっきまでの明るい夏の顔はどこへ行ったのか。 光は低くなり、 風は冷たくなり、 景色の色まで一段しずんで見えます。

ぼくは上着の前を閉めながら、 ひとりでぶつぶつ言いました。 「えっ、さっきまで夏だったよね?」 誰に聞いているのか分かりません。 空にです。 でも空は当然、何も答えません。 ただ黙って、さらに冷たくなっていきます。

そのあたりから、ぼくは少し可笑しくなってきました。 だって、こんなに堂々と話をひっくり返されたら、 怒るより笑うほうが先でしょう。 アラスカの空は、 ときどき本当に「はい、ここから次の季節」と平然と切り替えてきます。

第五幕

そして夜、ほんとうに雪が来た

夜です。 気温が落ちました。 かなり落ちました。 ぼくは肩をすくめながら歩いていて、 もうその時点で「これはだいぶ怪しい」と感じていました。

でも、まさか、です。 まさか本当にその先が雪だとは思いません。

顔に、何かが当たりました。 雨にしては軽い。 風にしてはやわらかい。 ぼくは立ち止まって、空を見上げました。 すると、暗い空の中を、 白いものがひとひら、またひとひらと落ちてきたのです。

「えっ。」

それから、もう一枚、肩に落ちる。 さらにもう一枚、手の甲に落ちる。

「ええっ!?」

そこでぼくは、本気で笑ってしまいました。 朝は初夏の顔をしていた空が、 夜には平然と雪を落としてくる。 こんなの、反則でしょう。 でも、目の前で起きている。 それがアラスカなのです。

雪は本降りではありませんでした。 でも、ちゃんと雪でした。 ふわりと落ちてきて、 光の中で白く見えて、 ぼくの中の「夏」の定義を、きれいに壊していきました。

夏の雪に本気で驚くヒロ
ヒロの本音

その瞬間、ぼくはちょっとアラスカを好きになりすぎた

もちろん、寒いです。 もちろん、予定は狂います。 もちろん、朝の判断が甘かった自分を少し責めます。 でも、それでも思ってしまったのです。 「いやあ、面白すぎるでしょう」と。

日本で季節は、もっと順番よくやってきます。 春のあとに夏。 秋のあとに冬。 ちゃんと列に並んでいる感じがあります。 でもアラスカは違います。 ときどき全員が同じ日に顔を出してくる。 春も、夏も、秋も、冬も、 「今日は自分も出ます」と言ってくる。

その厚かましさが、ぼくにはたまらなく面白かった。 そして、その面白さこそが、 アラスカの景色をただの美しさでは終わらせない理由なのだと思います。

きれいなだけの景色は、
見て終わる。
でも、笑ってしまう景色は、
ずっと忘れない。
旅人のみなさんへ

アラスカの夏をなめてはいけない。でも、怖がる必要もない

もし日本からアラスカへ来るなら、 ぼくはぜひ言いたいです。 薄着だけで勝負しないでください。 でも、身構えすぎなくても大丈夫です。

大事なのは、 重ね着できること。 脱いだり着たりを面倒くさがらないこと。 そして、空が急に話を変えてきても、 「なんだそれ」と少し笑えることです。

アラスカでは、 驚くことがそのまま旅の楽しさになります。 夏の雪なんて、その代表です。 もしあなたが同じ場面に出会ったら、 ぜひ空に向かって言ってください。 「ちょっと本気すぎませんか」と。 たぶん空は無視しますが、 あなたの旅はその瞬間、とても忘れにくいものになります。

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この話の面白さ

ヒロが伝えたいこと

  • アラスカでは、夏でも空が簡単に油断させてくること。
  • その裏切りが、むしろ旅の魅力になること。
  • 服装は慎重に、気持ちは柔らかくしておくといいこと。
  • 笑ってしまうような驚きは、ずっと記憶に残ること。
読後の余韻

このあとに残ってほしい気持ち

  • アラスカの空って、本当に自由なんだなという実感。
  • 旅では少し予想外のほうが面白い、という納得。
  • 自分もいつか「えっ、雪!?」を体験してみたいという気持ち。
  • 景色に驚いて笑うことの大切さ。
結び

アラスカの夏は、たまに本気であなたを笑わせにくる

それが困る日もあるかもしれません。 でも、たぶん忘れられない日にもなります。

ぼくにとって、あの夏の雪は、 ただ驚いただけの出来事ではありませんでした。 アラスカが「きれい」だけでは足りない土地だと教えてくれた、 最高に可笑しくて、最高に愛しい一日だったのです。