アンカレッジ到着、そして最初の戸惑い
ヒロがアンカレッジ空港に降り立ったのは、六月の終わりでした。 東京なら、すでに梅雨の湿気が街を包み、 シャツが肌に張りつく時期です。 ところが、飛行機の扉が開いた瞬間、 ひやり、とした空気が頬をなでました。 「えっ、これで夏なの?」 それが、ヒロのアラスカ最初の言葉でした。
空は驚くほど高く、 雲の位置まで遠く感じられました。 建物の高さではなく、空の深さで町の印象が決まる。 そんな場所に来たのは初めてでした。 タクシーの窓から見える光は明るいのに、 どこか影が冷たく、 町の外側にはすでに野生の気配がにじんでいました。
会社が用意してくれた仮住まいに着いた夜、 ヒロはカーテンを閉める手を止めました。 まだ明るい。 時計を見ると夜の九時半。 「まさか……」 そう思ってまた外を見ると、 夕方のような光がじわじわ残っていました。 東京の夜とは、夜の定義そのものが違う。 その事実に、ヒロは小さく息をのみました。