朝はたしかに春だった
朝の七時。 ぼくは外へ出て、まず深呼吸しました。 空気は冷たいのに、やわらかい。 木々のあいだに光が差して、 地面の色まで少し明るく見える。 「ああ、今日は気持ちいいな」 素直にそう思いました。
鳥の声まで、なんだか軽やかでした。 日本の春の朝みたいに、 「今日は外に出なさいよ」と世界が背中を押してくる感じです。 ぼくは少し調子に乗って、 今日は薄手の上着でいいだろう、と判断しました。 いま思うと、その時点でもう負けていました。
アラスカでは、 朝の機嫌のよさをそのまま信用してはいけません。 でもそのころのぼくは、まだ知らなかったのです。 空は平気で裏切る。 しかも悪気なく。