ムースを初めて見た朝、ぼくは「鹿」の定義を失った
ぼくが最初に本気で驚いた大型動物は、ムースでした。 日本語でざっくり言えばヘラジカですが、 正直に言うと、 ぼくの頭の中にいた「鹿っぽい生きもの」は、 その瞬間に全部やり直しになりました。
朝の光の中、 道路脇の少し湿った草地に、 何か大きな影が立っていました。 最初は馬かと思いました。 でも馬ではない。 首のつき方が違う。 顔の長さも違う。 そして何より、でかい。 本当に、でかい。
「うわっ……」 ぼくは思わず声を漏らしました。 そのムースは、まるで「何か用?」と言いたげに、 のっそりとこちらを見ました。 走るでもなく、 怒るでもなく、 ただ、圧倒的な大きさでそこにいる。 それだけで景色の主役が決まってしまうのです。
日本で鹿を見ると、 どこか軽やかな印象があります。 でもムースは違いました。 軽やかというより、 堂々。 森の事情を全部知っていそうな顔をしています。 ぼくはその場で、 「アラスカは動物まで規格が違うんだな……」と、しみじみ思いました。